「東京・下町自転車」(浅草) 中編:ホッピー通りと初音小路

ホッピー通り

 やって来ました「ホッピー通り」、今回の第一目的地でもありました。この80mにも満たない通りの両側には、牛モツの煮込み店が20件近く並んでいて、お昼の2時にもかかわらず大ジョッキやホッピーを囲むお客で溢れています

 どの店も庇(ひさし)を道路までせり出し、その下にテーブルを広げ、屋台村を思わせる風貌です。流石(さすが)にこの状況を当局が放置しておく訳もなく、地元商店との微妙な駆け引きが続いているようで、これは強制退去命令執行に遭(あ)う前に早く見に行かないといけません。


「居酒屋 浩司」

「鈴芳(すずよし)」

「正ちゃん」
 

 最初に向かうお店は「居酒屋 浩司」。巷(ちまた)で極めて人気の高いお店の一つで、食べログの評価でも3.52と云う信じられない高ポイントを叩き出しています。運良く店内のカウンター席が空いていました。ここではビールと一緒に定番の牛筋煮込み450円を注文。はたして、やわらかく煮込まれた牛筋肉は味も良く染(し)みていて噂どおりの一品です。しかも、口の中でほろりと解(ほぐ)れる大きな肉の塊は、食べても食べても底の方からどんどん出てきます。

 向かいのお店は「鈴芳(すずよし)。このお店の売りは樽生ホッピー、氷抜きで頂くのがベストなのだそうです。しかし、「浩司」と同じく中生600円は相当高め、今回は梯子(はしご)するのを見送ります。この周辺のお店は明らかに観光客を意識した価格設定で、しかも利益率の良いアルコールの注文が必須、ここは東京下町である前に世界の観光地「浅草」でした。

 次に向かったお店は「正ちゃん」。ホッピー通りを過ぎて少し先にありますが、道路に屋台のようにはみ出した営業形態は同一で、リッチモンドホテルの横にまで人が溢れているので遠くからでもすぐに分かります。このお店の人気は抜群で、しかもビールは500円。ご飯に牛すじ煮込みを乗っけた「牛めし」は、隠れた人気メニューという噂です。

 いざお店の前まで来て見れば、外の席は一杯で座れる余地がありません。ちょうど店内のカウンター席が空きました。お店の中は超狭く、L字形のカウンターに収容できる人数は8名程度です。後ろの壁には昔の浅草の写真が飾られていて、ここは相当古くから営んでいるお店のようです。

 ここではホッピーと牛筋の煮込みを注文。牛筋煮込みは各店独自の味を守っていて、よく味の染みた大きな豆腐の下に隠れるこのお店の牛筋肉は、やや歯応えのある仕上げになっています。

 右隣の人は、あちらこちらの銭湯に入るのが趣味とのこと、「へぇ〜、銭湯マニアなどと云うのもあったんだ!」と驚くことばかりです。ところで銭湯代も決して安くなく東京都では大人一人450円、これは物価統制令に基づき都道府県知事が決めることになっていて、さらに10円値上げの検討もなされています。

 もう片方の隣席では若い女性の二人組が牛筋煮込を突付きながら中ジョッキを一気飲み、ほとんど親父化しています。この後、美味しいお蕎麦を食べに本所吾妻橋まで行くのだそうです。

 ホッピー通りをさらに進んで突き当たったところが遊園地「花やしき」、その手前に「初音小路」と呼ばれる飲食店街がありました。ここは場外馬券売り場帰りのオッサン達のオアシスで、人で溢れるホッピー通りとは対象的に、観光客も滅多に近寄らない怪しさ溢れるスポットです。

 興味本位に立ち寄ってみれば、5月に放送されたばかりのNHK新日本風土記に出てきた人情溢れる下町の「おせっかい女将(おかみ)」が店を取り仕切っていて、覗(のぞ)くだけのつもりがついつい一杯。 路地の頭上は藤棚で覆われていてまさに緑のアーケード、初夏の強い日差しの下、藤棚の木陰で傾けるビールの味は極めて爽快です。

 休みの日は朝7時から営業しているとのことでビックリ、それにしてもそんなに早くからやって来る客は、いったいどういう種類の人間なのか想像すら出来ません。

 帰り際、通りを挟んだ反対側のお姉さんに「次は、こちらの店に伺いますね!」と挨拶すれば、なんと同じお店だとのこと。改めて店の看板を確認すれば、確かに両方「松よし」でした。「テレビには、あたしもチラッと出てたのよ。」と云う訳で、録画しておいた番組をもう一度確認しなくてはいけません。

 

新日本風土記(浅草)

初音小路



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(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
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